2012/10/17

NSF設置をめぐる議論

今日は東大教養学部での非常勤講師の日だった。先週はオリエンテーションだったので、今日から本格的な授業である。

この授業では、第二次世界大戦後の科学技術と政治との関係を扱うことにしている。毎回の授業では前半を講義、後半をディスカッションという形式で進める。

今日は、最初から鋭い質問がでた。

戦後間もなく、全米科学財団(NSF)設置のための法案が議会に提出された。そのうち一つは科学行政官ヴァネヴァー・ブッシュの主張を汲んだマグナソン上院議員によるもので、一つはキルゴア上院議員によるものだったが、それらは相異なる考え方に基づいていた。単純化して整理すると次のとおりとなる。

マグナソン上院議員による法案
キルゴア上院議員による法案
基礎研究重視
社会科学を排除
特許は研究者に帰属
科学者らの委員会による長官任命
最優秀の研究者に集中配分
応用研究重視
社会科学も対象
特許は政府に帰属
大統領による長官任命
各州にバランスのとれた配分

全般的にみると、マグナソン法案は共和党的なレッセフェール、小さな政府の考え方に沿うものであり、キルゴア法案は民主党的な大きな政府の考え方に沿うものである。

ただ、その党派的イデオロギーだけでは「基礎研究重視」⇔「応用研究重視」や「社会科学を排除」⇔「社会科学も対象」の対立項については説明できないのではないかという質問があった。

これは、非常に良い質問だったと思う。
確かに、「大きな政府志向」ということから「応用研究重視」という考え方は直接は導けないようにも思えるかもしれない。
だが、民主党的には大きな政府により社会の福祉を実現するというのが理念であることを考えれば、研究成果を社会に還元する応用研究重視の考え方は合点がいく。

また、共和党的なレッセフェール主義と社会科学排除の考え方の親和性も直ちにはみえない。
だが、これについても軍事と産業に直結する自然科学に資金が集中することを是とするのはやはり共和党的な考え方であるとみることができるように思う。

全体的に、非常にレベルの高い議論を行うセミナーになりそうである。来週以降はさらに密度の高い授業を目指そうと思う。

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