2012/01/07

島秀雄について

日本の宇宙開発の歴史における巨人を挙げるとしたら、糸川英夫とともに島秀雄が挙げられるだろう。
糸川が東京大学宇宙航空研究所(1964-1981年)の初期のロケット開発を率いたのに対し、島秀雄は宇宙開発事業団(NASDA)(1969年設立)の初代理事長であった。

島秀雄についても最近調べていたが、改めてその偉大さに圧倒されたところである。
戦前より多くの蒸気機関車の設計を主導し、戦後には東海道新幹線の建設を率い、NASDAでも着実に実績を残した。

島秀雄に関する伝記としては、やはり『新幹線をつくった男 島秀雄物語』が傑出している。
これまでに書かれた先行文献を徹底して洗い出し、それらを公平に評価し、加えて綿密な独自の深い取材を行ったあとが明確に読み取れる。


本書の著者は歴史家ではない。したがって記述に必ずしも厳密さはないし、誇張を含んでいると思われる表現もある。
だが、推測にもとづく記述については、きちんとそう断ってある。
学術的にみても、本書は大きな価値をもつと思う。

島秀雄の人生を知ると、ここまで勤勉、誠実で、能力にも運にも恵まれた人はほとんどいないのではないかと誰もが思うだろう。
もちろん、彼も国鉄車両局長時代の1951年、桜木町事故により辞職する等の経験もしている。
だが、これまで調べた限りでは、人間としての彼に本質的な陰の側面は出てこないのである。

私は、実際には彼も苦労も長く経験したのではないかと思っている。
自らの能力と努力に見合った報いを受けていないと感じていた時期が多かったのではないか。
だが、そう感じつつも実績を積み重ね、技術者人生を全うした人物である。

彼のような道を歩める人間は多くないと思うし、そのような彼を見習うことも容易ではない。
語弊はあるが、ほぼ「観賞用」の人物であるといえるだろう。芸術の域に達した人生といっても良いようにさえ感じる。

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